30%下落した資産が年率7%の一定複利で戻るなら、下落前の水準へ戻るまで約5.3年かかります。 50%下落した資産が年率10%の一定複利で戻る場合でも、約7.3年かかります。 この差は約2年です。
リスク許容度は、どれだけ下落しても平気かという気分だけでなく、必要な時期まで家計が待てるか、下落時に自分がどんな行動を取りそうかを同じ条件で確かめて考えます。1
下落率から、戻るまでの時間を計算する
下落前の資産指数を100と置きます。 30%下落すると指数は70になり、50%下落すると50になります。 指数70を100へ戻すには、下落後の70に対して合計で約42.9%上昇する必要があります。 指数50を100へ戻すには、下落後の50を2倍にする必要があります。
ここでは、30%下落側に年率7%、50%下落側に年率10%の上昇率が毎年同じ割合で複利になると仮定します。 回復年数を年、年率を、下落後の指数をとすると、下落前の100へ戻る条件は次の式です。
30%下落側の入力は、です。 50%下落側の入力は、です。 この式を解くと、30%下落側は約5.3年、50%下落側は約7.3年になります。
| 条件 | 下落直後の資産指数 | 説明用の一定年率 | 100へ戻るまで |
|---|---|---|---|
| 30%下落 | 70 | 7% | 約5.3年 |
| 50%下落 | 50 | 10% | 約7.3年 |
年率10%の方が高くても、50%下落側は戻すべき距離が大きいため、この条件では回復まで長くなります。 この年率は計算の入力として置いた説明用の仮定であり、毎年その成果が得られるという予測ではありません。
図で回復期間の差を見る
次の図は、下落直後から15年間、資産指数が一定複利で動く場合を示した説明例です。 横軸は経過年数、縦軸は資産指数で、点線の100が下落前の基準水準です。 30%下落・年率7%と50%下落・年率10%の2系列が、どの時点で100へ届くかを比べます。
- 下落前の基準(100)
- 30%下落・年率7%
- 50%下落・年率10%
30%下落・年率7%の系列は約5.3年で100へ戻り、50%下落・年率10%の系列は約7.3年で100へ戻ります。 図の回復点の差は、同じ「下落後に運用を続ける」場合でも、下落率と回復率の組み合わせによって待つ時間が変わることを示しています。 15年時点では50%下落・年率10%の系列が上回りますが、これは設定した年率を一定にした場合の結果です。
この差を、必要な時期まで資金を使わずに待てるかという家計の問いへ置き換えます。 回復を待つ期間に住宅費、教育費、車の買い替え、医療費などの支出が重なるなら、資産指数だけを見て判断することはできません。
リスク許容度を家計上の余力と心理的耐性に分ける
J-FLECは、リスク許容度に収入、保有資産、運用期間、投資経験、年齢や今後のライフイベントなどの客観的な要素と、下落時にどのように感じるかという主観的な要素があると説明しています。1 この記事では、客観側を「家計上の余力」、主観側を「心理的耐性」と呼びます。
家計上の余力は、毎月の収入と支出、保有資産、収入の安定性、近い将来の支出、資金を使う時期から確認します。 損失が出ても予定していた支出を別の資金でまかなえ、必要な時期まで待てるかが確認点です。
心理的耐性は、評価額が大きく下がったときに眠れなくなるか、売却や積立停止をしそうか、値動きを見続けて判断を変えそうかという行動面から振り返ります。 「半分になっても平気」と想像するだけでなく、実際に下落したときの自分の行動を具体的に考えます。
米国のCFP BoardとFINRAの実務・投資家向け資料も、損失を負っても目標を達成できる財務的な能力と、損失や変動を受け入れようとする意思を区別しています。2 これは日本の法令上の診断基準ではなく、家計と心理を別々に点検するための考え方です。 家計上の余力があっても心理的に行動を続けられなければ、反対に心理的には強くても必要な時期が近ければ、同じリスク量を選べるとは限りません。
「いつ使うお金か」を先に置く
金融庁は、ライフプランと資金ニーズを踏まえ、資金の性格とリスク許容度を確認してから資産形成を考える流れを示しています。3 まず、使う可能性がある時期を資金ごとに書き出します。 数年以内に必要になる教育費や車の購入費、修理費や医療費のような緊急支出と、当面使う予定のない資金では、下落を待てる時間が違います。
毎月の支出を確認し、収入が一時的に減った場合や予定外の支出が生じた場合に、どの資金から支払うかを決めておきます。 金融庁が掲載する座談会では、収入・支出や近い将来の支出をもとに生活資金を考える例が紹介されています。3 これは個々の家計を確認する入口であり、全員に同じ金額や月数を当てはめる基準ではありません。 必要時期が近い資金まで値動きの大きい資産に寄せてしまうと、回復を待つ前に現金化が必要になる可能性があります。
下落時の行動を質問にする
リスク許容度を点数だけで決めず、次の質問を家計の数字と一緒に書き出します。
- 評価額が30%下がったとき、その資金を使う予定はいつですか。
- 予定外の支出が出たとき、どの資金から支払いますか。
- 評価額が50%下がったとき、売却や積立停止をしそうですか。
- 過去の下落局面で、実際に売却、積立停止、保有継続のどれを選びましたか。
J-FLECも、心、時間、資金の余裕を持ち、長期・積立・分散を考えることを投資の心構えとして挙げています。4 質問の答えは適切な配分を自動的に決める診断値ではなく、自分の家計と行動を照合するためのメモです。5 ライフイベント、収入、支出、投資経験が変われば、同じ人のリスク許容度も見直しが必要になります。1
この記事から分かること、分からないこと
先ほどの図から分かるのは、下落率が大きいほど元の水準へ戻すための上昇率が大きくなり、同じ一定複利の条件でも回復を待つ期間が変わることです。 したがって、投資に回す金額を考えるときは、下落率だけでなく、その資金を使わずに待てる期間も確認する必要があります。
今回のシミュレーションだけから、将来いつ回復するか、毎年どのようなリターンになるか、特定の商品や資産配分が自分に適しているかは分かりません。 実際の回復期間は、リターンの大きさだけでなく値動きの順序にも左右され、追加投資、取り崩し、税金、手数料などでも変わります。 今回の比較は、二つの下落後の指数へ一定年率を掛けた説明例として、家計上の余力と心理的耐性を点検する入口に使います。
参考資料
リンク先は2026年8月28日に確認しました。
- J-FLEC「リスク許容度」 — リスク許容度の客観・主観の要素。
- J-FLEC「資産形成と金融商品」 — 資産形成、運用期間、資金の性格に関する教材。
- 金融庁「NISAの適切な活用に向けて」 — ライフプラン、資金ニーズ、長期・積立・分散の説明。
- 金融庁「本音が飛び出す!つみたてNISA座談会(第2回)」 — 収入・支出、近い支出、緊急支出を考える例。
- J-FLEC「投資をするにあたっての心構え」 — 心、時間、資金の余裕に関するQ&A。
- CFP Board, Guide to the Financial Planning Process — 財務的な負担能力とリスクを取る意思の整理。
- FINRA「Know Your Risk Tolerance」 — 負担できる損失と心理的に受け入れられる変動の区別。
- Hanna・Waller・Finke「The Concept of Risk Tolerance in Personal Financial Planning」 — リスク許容度の測定とリスク負担能力を分けて考える研究。
脚注
-
J-FLEC「リスク許容度」を参照しました。 ↩ ↩2 ↩3
-
CFP Boardの財務計画ガイドとFINRAのリスク許容度解説を参照しました。 ↩
-
金融庁「NISAの適切な活用に向けて」と金融庁「つみたてNISA座談会(第2回)」を参照しました。 ↩ ↩2
-
J-FLEC「投資をするにあたっての心構え」を参照しました。 ↩
-
Hanna・Waller・Finke「The Concept of Risk Tolerance in Personal Financial Planning」を参照しました。 ↩